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神戸地方裁判所 昭和41年(行ウ)10号 判決

神戸市葺合区国香通六丁目二番地

原告

山中博

右訴訟代理人弁護士

吉本登

神戸市生田区中山手通三丁目二一番地

被告

神戸税務署長

奥田実

右指定代理人

岡崎真喜次

前垣恒夫

黒木等

清原健二

井上修

山田太郎

遠藤忠雄

中島揚一

早川間二

土居佳雄

岩城章雅

主文

一、原告の昭和三七年分ないし同三九年分の各所得税について被告が原告に対し同四〇年九月一一日付でした各更正処分及び各過少申告加算税賦課決定処分を取消す。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、原告

主文と同旨

二、被告

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

第二、原告の請求原因

一、原告が昭和三七年分ないし同三九年分の各所得税について別表(一)の各確定申告欄記載のとおりの確定申告をしたところ、被告は同四〇年九月一一日付をもつて同表の各更正欄記載のとおりの各更正処分及び各過少申告加算税賦課決定処分(以上の処分を一括して本件各課税処分という。)をした。

二、そこで原告は、被告に対し異議申立をしたが、被告が同年一一月八日いずれもこれを棄却したので、同年一二月八日大阪国税局長に対し審査請求をしたところ、同局長は同四一年五月六日いずれもこれを棄却し、原告は同年同月二八日右裁決書謄本の送付を受けた。

三、しかしながら、本件各課税処分には後述のとおり原告に事業所得がないにもかかわらずこれがあるものと誤認してなされた違法があるので、その取消を求める。

第三、請求原因に対する被告の答弁と主張

一、請求原因一、二の事実は認めるが、同三の事実は争う。

二、本件三七年分課税処分の適法性について

原告の昭和三七年中における課税所得金額及び税額算出の根処は次のとおりである。

(一)  総所得金額 二、〇三六、八二一円

内訳 (1) 事業所得 一、九五二、五〇〇円

(2) 不動産所得 八四、三二一円

(二)  所得控除額 一二七、五〇〇円

内訳 (1) 生命保険料控除 三〇、〇〇〇円

(2) 基礎控除 九七、五〇〇円

(三)  課税総所得金額 一、九〇九、三〇〇円

前記(一)の総所得金額から前記(二)の所得控除額を控除したもの。

(四)  所得税額 四四八、七五〇円

(五)  過少申告加算税額 二二、四〇〇円

三、本件三八年分課税処分の適法性について

原告の昭和三八年中における課税所得金額及び税額算出の根拠は次のとおりである。

(一)  総所得金額 二、四三三、一一七円

内訳 (1) 事業所得 二、一四七、四一七円

(2) 不動産所得 二八五、七〇〇円

(二)  所得控除額 四二一、七四〇円

内訳 (1) 生命保険料控除 二六、七四〇円

(2) 配偶者控除 一〇三、七五〇円

(3) 扶養控除 一八三、七五〇円

(4) 基礎控除 一〇七、五〇〇円

(三)  課税総所得金額 二、〇一一、三〇〇円

前記(一)の総所得金額から前記(二)の所得控除額を控除したもの。

(四)  所得税額 四七六、九五〇円

(五)  過少申告加算税額 二三、八〇〇円

四、本件三九年分課税処分の適法性について

原告の昭和三九年中における課税所得金額及び税額算出の根拠は次のとおりである。

(一)  総所得金額 二、八二八、四四三円

内訳 (1) 事業所得 二、五四五、八八八円

(2) 不動産所得 二八二、五五五円

(二)  所得控除額 四一五、九八〇円

内訳 (1) 社会保険料控除 五、二八〇円

(2) 生命保険料控除 三四、四〇〇円

(3) 配偶者控除 一〇八、八〇〇円

(4) 扶養控除 一五〇、〇〇〇円

(5) 基礎控除 一一七、五〇〇円

(三)  課税総所得金額 二、四一二、四〇〇円

前記(一)の総所得金額から前記(二)の所得控除額を控除したもの。

(四)  所得税額 六一七、三四〇円

(五)  過少申告加算税額 三〇、七〇〇円

五、本件各係争年度中の事業所得の帰属について

原告は、本件各係争年度当時、神戸市葺合区琴緒町一丁目一〇番地所在の文化住宅を賃貸するかたわら、同市同区国香通六丁目二番地において国香木工所なる屋号で洋家具類の製造業を営んでいたものである。およそ事業所得が何人に帰属するかは事業の取引名義、当該事業に従事する形式等にとらわれることなく、実質的に当該事業を経営していると認められる者が何人かによつて判定すべきところ、以下に述べるとおり、本件係争年度当時の右国香木工所の実質的な経営者は原告であるといわなければならない。

(一)  同業者との交際

原告は、本件各係争年度当時、家具製造の同業者で組織されている神戸葺合家具組合の組合員として例年一月開催の総会に出席しており(殊に、ホテル神戸で開催された昭和三九年一月の総会においては、国香木工所の税金等の問題に関し同組合の顧問丸尾英一と激論した事実がある。)、同組合員相互の親睦を目的とする慰安旅行にも例年原告自ら参加し、同業者との交誼を深めもつて自己の事業の円滑な運営を図つている。また同三九年二月原告の母が死亡した時には、同組合として組合員である原告に香典及び櫁を贈つているが、これについて他の組合員から何の異議もなかつたばかりでなく(組合役員は別途櫁を贈つている。)原告もこれを当然のこととして受領している。さらに原告は、組合員及びその家族で行つている頼母子講にも加入している。

(二)  金融機関との取引状況

原告は、本件各係争年の前後を通じ、自己が取引主体となつて国香木工所の運転資金の調達、売上金の入金等事業経営のため以下の金融機関と反覆継続して取引をなし、右金融機関も原告を国香木工所の営業者と認識していた。

1 神港信用金庫本店との取引

(1) 借入れ等

(ア) 手形貸付

原告は、運転資金として昭和三四年一二月二六日二〇〇、〇〇〇円、同三五年八月一三日二〇〇、〇〇〇円、同年一二月二六日三〇〇、〇〇〇円、同三八年一月一一日三〇〇、〇〇〇円、同年同月三一日四〇〇、〇〇〇円、同年九月二〇日一五〇、〇〇〇円の手形貸付を受けている。さらに原告は、同三二年一二月頃より登槇隆夫名義でも手形貸付を受けている。この登槇隆夫名義の手形貸付金の担保として米山美恵子名義の定期預金が差入れられているが、右預金の届出印鑑が後記1の(3)及び2の(2)の各米山光男名義の普通預金の届出印鑑と同一のものであることからも、これらの各預金が右印鑑の所持人である原告のものであることが明らかである。

(イ) 証書貸付

原告は、証書貸付の方法により昭和三四年九月二八日から同年一二月一日までの間に運転資金として六二〇、〇〇〇円、同三八年三月一八日アパート建築資金として二、二五〇、〇〇〇円、同四一年三月一一日工場増築資金として五〇〇、〇〇〇円、同四二年一二月二三日工場改造資金として一、〇〇〇、〇〇〇円の各借入れをなしている。

(ウ) 手形割引

原告は、さらに国香木工所の取引先からの受取手形を同信用金庫本店で割引している。その一例として、昭和三八年一二月ユタカ装工こと中村豊が買掛金支払のため原告に裏書譲渡した額面一、四二〇、〇〇〇円の約束手形、同三九年一一月クラウンジユーリー株式会社が室内装飾工事代金の支払のため原告宛に振出した額面五〇〇、〇〇〇円の約束手形の割引をしている。

(2) 返済状況

原告は、昭和三五年七月より同三八年三月まで前記(1)の(イ)の借入れ以前の旧債務につき月一〇、〇〇〇円宛(ただし、同三五年七月一一日に九五、〇〇〇円、同年九月一〇日に一〇五、〇〇〇円、同三七年五月一一日に一三六、〇〇〇円)、同三八年四月より同四三年一二月まで前記二、二五〇、〇〇〇円の債務(同三八年三月一二日借入れ)につき月二五、〇〇〇円宛、同四一年五月より同四二年一二月まで前記五〇〇、〇〇〇円の債務(同四一年三月一一日借入れ)につき月二五、〇〇〇円宛、同四三年一月より同年一二月まで前記一、〇〇〇、〇〇〇円の債務(同四二年一二月二三日借入れ)につき月二五、〇〇〇円宛返済しており、かかる返済状況やその他に同四二年七月より同四三年一二月まで月一〇、〇〇〇円宛、同四二年九月より同四三年一二月まで月三、〇〇〇円宛の各定期積金をしていることからみて、原告に前記賃貸にかかる不動産収入以外の収入、すなわち国香木工所の経営より生ずる事業所得のあつたことは明らかである。そうして右借入残金は同四四年五月八日に一括して完済されているのであるが、その資金の出所は、神港信用金庫本店における原告名義の定期預金及び定期積金の解約引出金のほか、他人名義ないし架空名義(登槇隆夫、登槇松太郎、寺西一夫、登槇正弘、登槇正博、登槇光子、登槇悦子、熊野とき、寺西隆夫名義)の定期預金及び定期積金の解約引出金である。以上の定期預金等がすべて原告自身のものであることは、右解約当日における同信用金庫本店営業部現金取扱窓口の当該現金取引が同一人(すなわち原告)を対象としてなされていること(このことは同所備付の金銭出納機の記録用テープに付された出入金番号、いわゆるテラ番号により裏付けられる。)、原告以外の右名義は原告の近親者の実名ないしそれに似せた仮名であつて積立、解約の状況より原告の預金等と判断できること、以上の二点から明白である。

(3) 米山光男名義の普通預金

原告は、昭和三三年一二月三一日米山光男なる架空名義の普通預金口座を開設しこれを事業資金運用のため利用している。右預金口座が原告のものであることは、原告が同信用金庫から手形貸付を受けた同三四年一二月二六日の二〇〇、〇〇〇円と同三五年一二月二六日の三〇〇、〇〇〇円の二口(前記(1)の(ア))が右預金口座に振替入金されていることのほか、別表(二)のごとく原告が同信用金庫本店に割引を依頼した手形金(額面より割引料を控除した金額)が右預金口座に振替入金されていることから明らかである。およそ金融機関が顧客に貸付けをする場合には、当該人の口座であることを確認するため、必らず貸付手続に使用した印鑑と同じ印鑑の口座に振替えるのを常とし、他の預金口座に振替えることはしないのであつて、前記各振替の際新たな口座が開設されないで前記米山光男名義の普通預金口座に振替がなされたのは、当該口座が借受人と同一人である原告のものであることが同信用金庫で確認されていたからに外ならない。

2 関西信用金庫葺谷支店との取引

(1) 借入れ

原告は、事業の資金繰りのため昭和三七年二月七日二五〇、〇〇〇円、同三八年一一月二一日一一〇、〇〇〇円、同三九年一月三一日一五〇、〇〇〇円の借入れをしている。

(2) 米山光男名義の普通預金

原告は、同信用金庫同支店にも米山光男なる架空名義の普通預金口座をもち、昭和三七年八月より同三八年一月までの間、国香木工所の取引先(サーフル株式会社、富士装飾株式会社等)が買掛金の支払のため振出した手形小切手が右口座に入金されている。

(3) 伊藤俊三名義の別段預金

右預金口座には、国香木工所がその取引先より売掛金の決済として受取つた小切手の入金がなされているほか、原告が昭和三八年八月に購入した自家用自動車(パブリカ)の代金の支払のためにも利用されているとおり、同預金口座が原告自身のものであることは疑う余地がない。

3 神戸銀行山手支店との取引

原告は、伊藤俊三名義の普通預金口座をもち、国香木工所の取引先が買掛金の決済のため振出した手形のほか、売上金が入金されており、昭和三九年三月以降特にこれが頻繁となつている。

4 営業者名義の仮装

(1) 山口隆夫名義

原告が本件各係争年度当時の国香木工所の経営者であると主張する山口隆夫は、原告の甥であつて、右当時原告所有の同一敷地内の家屋にそれぞれの家族と共に同居し、山口隆夫の昭和三七年分所得税の確定申告書では原告の妻山中みつを事業専従者として記載し、原告の母山中とき、長女美恵子、長男正博、二女悦子を自己の扶養親族として記載しており、住民票上も原告の家族が世帯員となつている。そして国香木工所の水道供給契約が原告名義でなされ、その料金は原告が支払つている等の事実に徴し、原告と山口とは生計を一にする親族であり、かつその生計を主宰する者は原告というべきである。このように生計を一にし、かつ日常の起居を共にしている親族のうち事業所得が誰に属するかについては、原則として、当該事業に要する資金の調達をなし、その他当該事業経営の方針の決定につき支配的影響力を有すると認められる者が何人であるかにより判定されるが、この場合、その者が何人であるか不明であるときは、生計を主宰していると認められる者がその者であると解されるから、本件各係争年当時の事業所得は原告に帰属し、山口隆夫は単なる仮装営業名義人に過ぎないと認むべきである。

(2) 伊藤俊三名義

原告は、昭和三八年被告が国香木工所の所得調査を開始するや、営業者名義を山口隆夫から同人の義弟であり、かつ国香木工所の従業員である伊藤俊三に変更している。このような実体の伴わない再度の名義変更による仮装工作によつてかえつて実質経営者が原告であることが窺えるのである。

第四、被告の主張に対する原告の答弁と反論

一、被告の主張二ないし四の各(一)の(1)の事実は否認する。同各(二)の事実は認める。

被告の主張五の冒頭事実のうち、原告が本件各係争年当時被告主張の文化住宅を賃貸し賃料収入を得ていたことは認めるがその余の事実は否認する。同五の(一)の事実は争う。同五の(二)の冒頭事実及び1ないし3の各事実は否認する。同4の事実中、山口隆夫が原告の甥であること、伊藤俊三が山口隆夫の義弟であることは認めるが、その余の事実は否認する。

二、国香木工所の営業者について

(一)  原告は、昭和二三年頃より神戸市葺合区琴緒町一丁目において山中家具製作所なる屋号で洋家具製造業を経営していたところ、同三一年二月二六日その工場が焼失し工員三名が焼死する災難に遭つたため、新工場を同市同区国香通六丁目三番地に建築し、引続き山中家具製作所を経営していたが、右火災が原因でやがて事業に嫌気がさし、同三四年初め頃廃業の決意を固めた。ところが、当時原告の従業員であつた山口隆夫より、原告が事業をやめるというのなら自分がその事業を引継ぐから工場並びに関係施設を貸して欲しい旨の申し出があつたため、原告も同人に事業経営を譲ることとし、山口は屋号を国香木工所と改め、その旨所轄の労働基準監督署やその他の関係官公署と取引先に通知して営業活動を始めた。そして山口は別表(三)の「営業者」欄記載のとおり、同三八年から同三九年にかけて伊藤俊三に営業を任せた時以外、国香木工所の経営に従事してきたものであり、他方原告は、前記山中家具製作所の工場跡に文化住宅を建て、これと国香木工所の工場建物の賃貸料収入で生計をたててきたものである。

(二)  右のように昭和三四年以降山口隆夫が国香木工所の営業者であることは、その当時被告自身も熟知・承認していた。すなわち、山口が昭和三七年三月国香木工所の同三六年分の事業所得を六八〇、〇〇〇円と確定申告したところ、被告は同三九年九月五日その営業主が山口であることを当然の前提としたうえで右金額を六五〇、〇〇〇円と減額更正している。ところが、山口の翌三七年分の事業所得について、被告の係官が指導して申告させた所得金額六三〇、〇〇〇円を被告が一方的に一、九五二、五〇〇円と増額更正したところ、これに対し山口が異議申立、審査請求をしたため、担当協議官が窮余の一策として、一方では山口の右所得金額を零と更正して同人の不服申立をかわし、他方では国香木工所の営業主が山口ではなく原告であるとして右一、九五二、五〇〇円の更正額をそのまま原告に転嫁する操作をしたものであり、それと辻褄を合わせるため原告の同三八年分及び同三九年分所得税についても本件課税処分をしたのである。このように山口と担当協議官との間の増額更正をめぐる紛争の余波が本件のような形で原告に及んだもので、国香木工所の営業者を原告とする理由は何もない。

三、原告と同業者組合との関係について

原告は、かつて山中家具製作所を経営していた当時被告主張の神戸葺合家具組合の組合員であつたが、前述のように営業を山口に譲るとともに右組合を脱退し、以後は山口が組合員となつたものである。ところで、原告は本件各係争年度当時被告主張のように右組合の総会に出席したことはあるが、同組合は業者の親睦団体で総会といつても組合員本人でなければ出席できぬものではなく、従前からの関係から山口の代りに出席したに過ぎない。慰安旅行への参加も同様である。同組合が組合員の近親者(原告の母は山口の祖母でもある。)の葬式に櫁を贈つても何ら異とするに足りない。

四、金融取引について

(一)  神港信用金庫本店からの借入れについて

被告主張のような借入れをしたからといつて原告が国香木工所の営業者であるとする根拠にはならない。例えば、原告が昭和三四年九月二八日より同年一二月一日までの間に借入れた六二〇、〇〇〇円は、被告主張のように事業の運転資金の調達のためではなく、米穀商をしている知人の柏原勝に頼まれて同人がさきに同信用金庫より借入れた約六二万円の借入金につきなした連帯保証債務を履行するために借入れたものである。

(二)  神港信用金庫本店の米山光男名義の普通預金について

原告は、山中家具製作所を営業していた当時同信用金庫本店に米山光男名義の自己の普通預金(別表(三)のA預金)を有していたのであるが、同信用金庫は山口が原告より営業を引継いだ際右口座とは別にあらためて山口のため米山光男名義の普通預金口座(同表のB預金)を設定したもので、これがすなわち被告主張の仮名預金である。被告主張の二口の手形貸付金の振替入金は、いわゆる振替操作ではなく、原告が手形貸付を受けた金員を山口に貸与し、山口がこれを自己のB預金口座に入金したものに過ぎない。仮にこれが被告主張どおりの振替だとしても、手形貸付を受けた顧客の普通預金口座が当該金融機関になかつたり、顧客から特に依頼があれば金融機関が手形貸付金を他人名義の普通預金口座に振替入金しても差支えないし、殊に信用金庫などでは顧客の注文に容易に応じているのが実情であるから、右振替の点は、被告主張事実の根拠とはならない。

(三)  関西信用金庫葺合支店の米山光男名義の普通預金について

これは、山口が国香木工所の営業用に開設したものであり(別表(三)のC預金)、同人は昭和四〇年には認印と実印による二口の自己名義の普通預金口座(同表のE預金及びF預金)も開設しこれを運用している。

(四)  関西信用金庫葺合支店の伊藤俊三名義の別段預金について

これは伊藤俊三自身のものである。もつとも別段預金といつても普通預金のごとく伊藤俊三の独立した口座があつた訳ではなく、代手の取立口であつて、同支店が預金口座を持たない者から手形の取立等の依頼を受けたとき依頼のあつた日付順に依頼者の氏名と依頼の趣旨を記載している帳簿(これを別段預金と呼んでいる。)の中から伊藤俊三関係を抽出したものである。この伊藤俊三の別段預金のあつた時期が前述した同人の営業時期と符合する。この預金口座が被告主張のように原告の自家用自動車の購入代金の支払手形の決済に使われた事実はない。

(五)  神戸銀行山手支店の伊藤俊三名義の普通預金について。

これは伊藤俊三のものである(別表(三)のG預金)。

第五、証拠関係

一、原 告

甲第一ないし第三号証の各一ないし三、第四号証、第五号証の一ないし七、第六号証の一ないし四、第七号証の一、二、第八、第九号証、第一〇号証の一ないし四、第一一号証の一、二、第一二、第一三号証、第一四、第一五号証の各一、二、第一六ないし第二二号証、第二三号証の一ないし三、第二四ないし第三四号証、第三五号証の一、二、第三六号証の一ないし五を提出。

証人山口隆夫(第一、二回)、同伊藤俊三、同川原一郎、同多田羅昭三、同伊藤美也子、同塩見宏、同東茂、同滝秀昭、同矢野光伸、同久保河内光義、同中村豊、同横井伝、同吉田清左衛門の各証言及び原告本人尋問の結果(第一ないし三回)を援用。

乙第三号証の一、二、第七ないし第一〇号証、第一二ないし第二〇号証、第二三号証、第二四号証の一ないし五、第二五号証の一、二、第二六ないし第二八号証、第三〇号証の一ないし一〇、第三五号証の成立は認め、乙第四号証中一枚目昭和三三年一二月三一日付記載欄の成立は認めるがその余は不知、その余の乙号各証の成立は不知と述べた。

二、被 告

乙第一、第二号証、第三号証の一、二、第四号証、第五号証の一、二、第六ないし第一〇号証、第一一号証の一、二、第一二ないし第二〇号証、第二一号証の一、二、第二二、第二三号証、第二四号証の一ないし五、第二五号証の一、二、第二六ないし第二九号証、第三〇号証の一ないし一〇、第三一ないし第三六号証、第三七号証の一、二、第三八、第三九号証を提出。

証人清水菊治、同山口隆夫(第一回)、同伊藤俊三、同山田俊郎の各証言を援用。

甲第一ないし第三号証の各一ないし三、第五号証の一ないし七、第六号証の一ないし四、第七号証の一、二、第八、第九号証、第一一号証の一ないし三、第二二号証、第二三号証の一ないし三、第二五ないし第三四号証、第三五号証の一、二の成立は認めるが、甲第三六号証の四、五中官署作成部分の成立は認め、その余は不知、その余の甲号各証の成立は不知(ただし、甲第一八ないし第二一号証と同じ内容の書類が税務署に出されていることは認める)。

理由

一、請求原因一、二の事実は当事者間に争いがない。

二、被告は、本件各係争年度当時原告が国香木工所なる屋号で洋家具類の製造業を営んでおり、それによる事業所得はすべて原告に帰属する旨主張し、原告は、右国香木工所の営業者は山口隆夫ないし伊藤俊三である旨抗争するので、この点について判断する。

(一)  成立に争いのない甲第八、第九号証、第二三号証の一ないし三、第二五ないし第三二号証、乙第九、第一〇、第一二号証、証人山口隆夫の証言(第一回)により真正に成立したものと認められる甲第一〇号証の一ないし四、第一二、第一三号証、第一四号証の一、二、乙第六号証、原告本人尋問の結果(第一回)により真正に成立したものと認められる甲第一七号証、証人山口隆夫(第一、二回)、同川原一郎、同伊藤俊三、同多田羅昭三、同東茂、同矢野光伸、同久保河内光義、同横井伝、同吉田清左衛門、同滝秀昭の各証言及び原告本人尋問の結果(第一ないし三回)を総合すると、次の事実が認められ、これに対する的確な反証はない。

(1)  原告は、昭和二三年頃より神戸市葺合区琴緒町一丁目において山中家具製作所なる屋号で洋家具製造及び室内装飾業を経営していたが、同三一年二月二六日火災で工場兼居宅が全焼したため、同年秋頃あらたに同市同区国香通六丁目二番地の自己所有地に事業所を移して営業再開を図ることとし、同所に木造瓦葺平家建工場兼居宅を新築し、営業をはじめた。しかし、右火災で住み込み工員三名が焼死したことで世間体を憚つたことや、営業成績も思うにまかせないことから、次第に事業の経営への意欲を失い、税法上認められた三年の繰越欠損経理の終了を間近に控えた同三三年末頃には、廃業するか、あるいは経営を他人に任せたいと考えるようになつた。そして同時に賃料収入で生計をたてるべく前記琴緒町の工場焼跡に文化住宅を新築し、本件各係争年度当時も右賃料収入を得ていた(この点は当事者間に争いがない。)。

(2)  ところで、山口隆夫は、原告の甥であり(この点は当事者間に争いがない。)、幼少の頃父を亡くして以来原告の家族の一員として生活し、長じてのちは原告の前記木工所で職人として働き、やがて職長の地位を占めるに至つたが、昭和三三年五月結婚し右工場の二階で新所帯をもつたのを機会に、折あらば仕事の上でも独立したいと思つていたところ、同年末前述のような心情にあつた原告に対し、その事業を引継ぎたい旨申入れ、ここに山口が右営業を独立してやることとなつた。

(3)  そこで山口は、同三四年初め頃原告より工場及び事業用施設を賃借し、原告が使用していた五、六名の従業員を引継ぎ得意先の一部も譲り受け、右木工所の屋号を国香木工所と改め、かかる営業者の交替と屋号の変更を所轄の労働基準監督署と税務署に届出た。そして同三四年分所得税以降山口が事業所得の申告(ただし、同三六年分までは欠損)をし、本件各係争年当時も山口が所轄労基署に対し労働者災害補償保険の保険料に関する報告をし、かつ所定の保険料を納付していたのみならず、注文受け、集金、従業員に対する仕事上の指図、資金繰りその他営業の重要な部分は山口がこれを行つていた。

(4)  伊藤俊三は、山口の妹(すなわち原告の姪)を妻にもち昭和二六年頃より山中家具製作所で職人として働き、山口が国香木工所をはじめてからは職長として山口に協力していたところ、同三八年秋頃、山口が自己の事業所得について税務調査がなされたことや、借入金が嵩んだことで一時事業に嫌気がさしたため、原告とも相談の末、経営をひとまず伊藤が引受けることとし、同人において原告より工場と付帯施設を賃借し、翌三九年中頃までその経営に従事した。しかし、その頃から山口が再び営業主として活動するようになり、同四三年暮国香木工所が倒産するや、その債権者は山口に対し負債の返済を迫り、破産申立、強制執行の手段に及んだ。

(二)  ところで被告は、原告が国香木工所の営業者であることの根拠の一つとして、同人が地元の同業者で組織される家具組合の組合員として活動し、他の組合員もそれを認めていた旨主張し原告が被告主張のように本件各係争年度当時神戸葺合家具組合の総会、慰安旅行に参加し、原告の母の葬式の際に同組合が原告に香典及び櫁を贈つた事実については、原告もこれを争つておらず、原告が被告主張の頼母子講に参加していたことは、証人山田俊郎の証言により真正に成立したものと認められる乙第二号証から窺えるけれども、証人山口隆夫(第一回)、同多田羅昭三の各証言及び原告本人尋問の結果(第一回)によれば、同組合は同業者の親睦団体であり、原告は山中家具製作所の当時長年同組合の組合員であつたところから、山口が国香木工所を経営するようになつた後も、偶々同組合との右のような関係が続いたに過ぎず、本件各係争年当時は山口が組合員として組合費を納めていたことが認められ、他にこれを覆すに足る反証はないから、この事実に照らすと、被告主張のような事実は原告が国香木工所の営業者であることの根拠とは到底なり得ないものというべきである。

(三)  さらに被告は、原告が本件各係争年の前後を通じ国香木工所の運転資金の調達、売上金の入金等のため金融機関と反覆継続して取引をし、右金融機関も原告を国香木工所の営業者と認識していたと主張するので、以下順次検討する。

1  神港信用金庫本店との取引について

(1) 借入れ等

(ア) 手形貸付

成立に争いのない乙第三号証の一、弁論の全趣旨により成立の真正を認め得る乙第二九、第三六号証及び原告本人尋問の結果(第一ないし三回)によれば、原告が被告主張の日に自己名義及び登槇隆夫名義で被告主張金額の手形貸付を受けたことが認められるが、右借入目的が被告主張のように原告が自己の営業の運転資金の調達であることを認めるに足りる証拠はなく、かえつて、右本人尋問の結果、証人清水菊治の証言により成立の真正を認め得る乙第五号証の一、二及び証人山口隆夫の証言(第一回)によると、原告は山中家具製作所当時より手形貸付を受けており、国香木工所の営業をはじめた山口が金融取引の信用、実績の面でまだ十分でないところから、この側面を援助するため、前記借入金の一部(例えば昭和三四年一二月二六日借入れの二〇〇、〇〇〇円、同三五年一二月二六日借入れの三〇〇、〇〇〇円)は山口の事業資金として融通する目的で自己が貸付を受けたものであることが認められる。それ故被告の主張は採用できない。

(イ) 証書貸付

成立に争いのない乙第二四号証の一ないし五、弁論の全趣旨により成立の真正を認め得る乙第二二号証及び原告本人尋問の結果(第一ないし三回)によれば、原告が被告主張の日にその主張金額の証書貸付を受けたことが認められるが、成立に争いのない乙第一九号証、右本人尋問の結果及びこれにより成立の真正を認め得る甲第三六号証の一ないし五(ただし、甲第三六号証の四、五中官署作成部分の成立は争いがない)、弁論の全趣旨により成立の真正を認め得る乙第二二号証及び証人吉田清左衛門の証言によると、昭和三四年九月二八日から同年一二月一日までの間に借入れた六二〇、〇〇〇円は、米穀商を営む訴外柏原勝の旧債の返済に充てられたものであること、同三八年三月一八日借入れの二、二五〇、〇〇〇円は、原告が山中家具製作所の当時に運転資金として借入れた約二〇〇万円の残債務とその後の自己の手形貸付金七〇〇、〇〇〇円の各返済と文化住宅建築資金調達のためであり、同四一年三月一一日借入れの五〇〇、〇〇〇円及び同四二年一二月二三日借入れの一、〇〇〇、〇〇〇円は賃貸工場の増改築資金調達のためであることが認められるから、この点の被告の主張も理由がない。

(ウ) 手形割引

成立に争いのない乙第二三、第二七、第二八号証及び証人山口隆夫の証言(第一回)によれば、本件各係争年度当時、国香木工所の取引先よりの原告名義の受取手形が同信用金庫本店で割引されていることが認められるが、証人山口隆夫(第一回)、同中村豊の各証言及び原告本人尋問の結果(第三回)によると、原告は山中家具製作所当時その受取手形を右信用金庫で継続的に割引いており、山口が経営を承継するに及んで山口は原告の了解を得て原告の右割引口座を借用することとし、その必要上国香木工所の取引先より受取る手形の名義人を原告としたに過ぎぬことが認められるから、この点に関する被告の主張も理由がない。

(2) 返済状況について

前掲乙第二四号証の一ないし五、成立に争いのない乙第二五号証の一、二、第三〇号証の一ないし一〇、弁論の全趣旨により成立の真正を認め得る乙第三一ないし第三四号証によれば、原告は前記借入金につき被告主張のように返済し、昭和四四年五月八日右借入残金を被告主張の定期預金等で完済していること、原告が被告主張のような定期積金をしていることが認められるが、前掲乙第一九号証及び原告本人尋問の結果(第一ないし三回)によると、原告は国香木工所の工場及び文化住宅の賃貸料収入を本件各係争年度当時で年間七〇ないし一〇〇万円ほど得ており、他に山中家具製作所経営当時からの蓄財、火災保険金、知人に対する金融の運用益等の収益があり、昭和四四年五月八日の一括返済に当つては近親者の定期預金解約引出金を借用したことが認められるのであつて、この事実に照らせば、被告主張の返済状況等だけから原告に国香木工所の経営より生ずる事業所得があつたことを推測させることは到底できないという外はない。

(3) 米山光男名義の普通預金について

被告は、原告が昭和三三年一二月三一日米山光男名義の普通預金口座を開設しこれを自己の事業資金の運用のため利用していると主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。かえつて、弁論の全趣旨により真正の成立を認め得る乙第四(ただし、一枚目昭和三三年一二月三一日付記載欄の成立は当事者間に争いがない。)、第三八号証、証人山口隆夫の証言(第一、二回)及び原告本人尋問の結果(第一ないし三回)によれば、原告は同三一年四月頃米山光男名義の普通預金口座(原告のいうA預金)を設け、これに火災保険金を入金し運用してきたところ、山口は国香木工所の経営をはじめた際、原告から右預金の利用も任されたが、営業者の交替を聞知した同信用金庫本店において右口座とは別に同名義の普通預金口座(原告のいうB預金)を開設し、以来同三七年頃まで山口がこのB預金を国香木工所の事業目的に利用したことが認められる。もつとも、前掲乙第四号証、第五号証の一、第二三号証及び弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第二一号証の一、二によれば、右B預金には被告主張のように原告の手形貸付金の一部や手形割引金の振替入金がなされていることが認められるが、これは、前述のとおり、原告が山口のため金融の便宜を与えたに過ぎないから、この点を捉えて原告がB預金の支配をしていたとなすことはできない。従つて、この点の被告の主張は採用できない。

2  関西信用金庫葺合支店との取引について

(1) 借入れについて

前掲乙第一九号証によれば、原告が被告主張の借入れをしていることが認められるが、その借入れ目的に関する被告主張事実を認めるに足りる証拠はない。

(2) 米山光男名義の普通預金について

被告は、原告が自己の事業資金の運用のため同信用金庫同支店にも米山光男名義の普通預金口座をもちこれを利用していると主張するが、成立に争いのない乙第一四号証、弁論の全趣旨により成立の真正を認め得る乙第三九号証、証人塩見宏、同山口隆夫(第一、二回)の各証言及び原告本人尋問の結果(第一ないし三回)によると、右預金口座は、山口が神港信用金庫における前記B預金と同一の名義、印鑑を用いて開設したもので、ここには国香木工所の受取手形小切手が入金されていることが認められるから、結局、被告の主張は理由がない。なお、成立に争いのない乙第一三号証には、山口が後記(3)の預金以外に同信用金庫同支店と取引がない旨の記載があるが、これは原告に対する被告の税務調査の際原告の相談にのつていた川原一郎が十分な調査に基づかないで担当協議官に報告したに過ぎないこと証人川原一郎の証言に徴して明らかであるから、前記記載は被告の右主張事実を裏付けるものではない。

(3) 山口隆夫名義の預金について

前掲乙第一三号証、証人塩見宏、同山口隆夫(第一回)の各証言によれば、山口は原告主張のとおり、昭和四〇年四月一二日と同年一二月二七日に自己名義の普通預金口座(別表(三)のE預金及びF預金)を開設し、これを国民金融公庫よりの融資等のために利用していることが認められる。

(4) 伊藤俊三名義の別段預金について

被告は、原告が伊藤俊三名義の別段預金をもちこれに国香木工所の受取小切手が入金されていると主張するが、成立に争いのない乙第一七、第一八号証、証人塩見宏、同伊藤俊三の各証言によると、伊藤は、前述のとおり、昭和三八年秋頃より同三九年中頃までの間一時国香木工所の営業を主宰したのであるが、後記3の預金口座以外に預金口座をもつていなかつたので、山口が取引のある同信用金庫同支店に手形小切手の取立口座として自己の別段預金をもうけ、ここで国香木工所の受取小切手を取立てていたことが認められる。さらに被告は、右別段預金が原告のものであることの根拠として、原告のパプリカ購入代金の支払手形の一通(額面一七、一〇〇円)が右預金口座で決済されている事実を指摘するが、前掲乙第一七、第一九号証と成立に争いのない甲第二二号証を対比してみても右主張事実を認めるに十分でない。被告の主張はにわかに採用し難い。

3  神戸銀行山手支店との取引について

被告は、原告が同銀行同支店に営業用の預金口座をもつていたと主張するが、成立に争いのない乙第一五号証、証人伊藤俊三、同伊藤美也子の各証言によると、伊藤俊三は、昭和三七年六月二二日自己の日常家事用に自己名義の普通預金口座(別表(三)のG預金)を開設したが、前述のように国香木工所の営業を引継いでからはその取引代金の出入のためにも利用するようになつたものであることが認められるから、被告の主張は理由がない。

4  以上検討したところからすれば、原告は、本件各係争年度当時、国香木工所の事業資金の調達、運用の面で山口隆夫ないし伊藤俊三に便宜を与え、協力していた一面があることは否定できないが、その程度・態様は、決して同人らに対し支配的影響力を与えるようなものではなかつたものと認めるのが相当である。

(四)  被告は、さらに、原告が営業者名義を山口隆夫ないし伊藤俊三に仮装していると主張するので、この点について考える。

1  被告は、山口が本件各係争年度当時原告と生計を一にする親族であり、かつ原告がその生計の主宰者であると主張するが、原告と山口が叔父、甥の関係にはあつても本件各係争年度当時は所帯を別にし、両者は同一の営業に従事していたとは認め難いこと前認定のとおりであるから、被告主張の点は前提を欠くものといわなければならないのみならず、右主張事実そのものも肯認し難い。すなわち、山口の昭和三七年分所得税の確定申告書や住民票に被告主張のごとき記載があること、国香木工所の水道供給契約が原告名義でなされていることは、前掲乙第六号証、成立に争いのない乙第七、第八号証によつて認め得るが、証人川原一郎、同山口隆夫(第一回)の各証言及び原告本人尋問の結果(第一回)によると、右確定申告と住民票は、山口の確定申告の指導に当つた被告職員より山口に対し、他の同業者なみに申告額を増額し同時に扶養控除額を増やせば実質的には納税額が変わらないとの話があり、扶養控除額を増やすための便法として前述のような操作をしたに過ぎないこと、水道料金も山口が国香木工所用及び自己の家庭用の分を原告に支払つていることが認められるから、前述の点は被告主張事実を裏付けるものではないし、他にその支持証拠は存しない。してみると、この点についての被告の主張は採用することができない。

2  被告はまた、伊藤俊三の営業名義も仮装工作であると主張するが、その理由のないこと前述(二の(一)(4)、(三)2(4)及び(三)3)のところより明らかである。

以上被告主張立証にかかる金融機関との取引状況の中には表面的には原告が営業主体として経済活動に関与していたのではないか、或は仮装名義で経済活動をしていたのではないかとの疑惑はないわけではないが、それは山口隆夫、伊藤俊三が原告の親戚であり且原告が経営していた山中家具製作所時代からの職人であつた関係上営業を承継後預金口座の取扱、設定に杜撰な点があつたために外ならず、被告の主張は実体を伴わない皮相な見解に過ぎないと認めるのが相当である。

(五)  そして、本件全証拠を以てしても本件係争年度の期間を通じて原告が洋家具製造、室内装飾業について事実上営業活動をしていた事跡は認められず、これと以上の事実を総合するときは、本件各係争年度当時、国香木工所の営業方針、資金計画、労務管理等営業の重要な部分の決定は山口隆夫ないし伊藤俊三がこれを行い、従つて、同人らがその営業者であつて、原告は事業資金の調達、運用の面でこれらの者に便宜を与えていたにとどまるものとみるのが相当であり、原告において自己の計算と危険において営利を目的として継続的に経済活動をしていたものとは認められない。

そうとすれば、本件各係争年度当時の国香木工所の営業者が原告であることを前提として、右営業より生ずる事業所得が原告に帰属するとの被告の主張は、その余の点を判断するまでもなく失当といわなければならない。

三、ところで、本件各係争年度中の原告の不動産所得額が被告主張のとおりであることは原告において明らかに争わないから自白したものとみなされる。そうして、被告主張の本件各係争年度分の所得控除額は当事者間に争いがなく、右各所得控除額が前記各不動産所得額を上まわること明らかであるから、結局、本件各課税処分はすべて違法として取消を免れないというべきである。

四、よつて、原告の本訴請求を正当として認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松浦豊久 裁判官篠原勝美は転任につき、裁判官則光春樹は、退官につき、いずれも署名捺印することができない。裁判長裁判官 松浦豊久)

別表(一)

〈省略〉

別表(二)

〈省略〉

別表(三)

〈省略〉

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